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北京駐在スタッフの随想

No.048 「中国のマイコプラズマ肺炎流行」

2023年11月24日
特任教授 林 光江

10月頃から中国のマイコプラズマ肺炎に関する報道をよく目にするようになった。マイコプラズマ肺炎は細菌の一属であるマイコプラズマ・ニューモニアという病原体によって引き起こされる呼吸器疾患である。飛沫と濃厚接触による感染が主で、潜伏期間は2−3週間。初期症状は発熱、全身倦怠、頭痛などで、徐々に咽頭痛、咳、消化器症状が出てくることが多い。抗菌薬=抗生物質での治療が一般的だが、そのうち効果のあるものは限られている。耐性をもつ病原体も出現している。

周期的に大流行を起こすと言われており、日本では1984年の次に1988年に比較的大きな流行があり「オリンピックの年にはマイコプラズマ肺炎が流行る」と言われていたそうだが、2000年以降は周期的な流行は認められていない。中国では1960年代頃から3-7年おきに流行を繰り返しており、直近では2019年に大流行があった。

中国で感染者の中心は5歳以上の子どもから青少年と考えられてきたが、今年は3歳以下の感染者も若干増えているという。大人は感染しにくいと言われているものの家庭内で大人への感染も確認されている。11月13日国家衛生健康委員会の会見によれば、北京市呼吸疾病研究所における患者からのマイコプラズマ検出率は大人で5.59%、子どもでは40.34%に達している。北京市にある中日友好病院では10月の小児外来患者は17,291人で、毎年同時期の3倍に及んだという。患者の90%が呼吸器疾患であり、そのうち3分の1以上がマイコプラズマだった、と11月6日「科技日報」は報じている。

11月に入ってからはマイコプラズマ肺炎が若干落ち着き、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、ライノウイルス、RSウイルス感染が増加してきているとの報告がある。折しも11月22日WHO(世界保健機関)は、中国で子どもの肺炎が増加していることを受け、中国に情報提供を要請した。

ここ3年、中国では新型コロナウイルス感染症に対する厳しい措置が行われていたこともあり呼吸器疾患数も減少していたが、昨年12月に制限措置が解除されたため、今年は感染者数が激増しているとみられている。日本でもインフルエンザが例年に比べ早い時季から流行しているが、アデノウイルスによって引き起こされるプール熱などインフルエンザ以外の他感染症も流行している。日本も中国と同様に、コロナ禍で種々のウイルスに対する免疫を獲得できていないことが理由として挙げられている。

これから冬にかけて呼吸器疾患は増加傾向にある。年末年始にかけて海外との往来も増えるだろう。東南アジアではデング熱の流行も報じられている。心してこの冬を乗り切りたい。